1年間の主権者教育の授業を終えて、今感じていること

2025年は、中学3年生の皆さんと一緒に、「社会科の授業」を通して学校教育の現場でシティズンシップ教育・主権者教育に取りくむ機会に恵まれました。

授業を受けてくれた生徒のみなさん、右も左もわからない中、さまざまな助言をいただいたり、ご理解・ご協力をいただきました先生方、そしてこの実践を形にするうえで関わってくださったすべての方々にお礼を申し上げます。

本当にありがとうございました。

今年度の授業では、政治分野の担当ということで、政治や選挙の仕組みだけでなく、税や社会保障、地方自治、少年法、ホームレス問題、安楽死、臓器移植、インターネットと人権など、本当にさまざまなテーマを扱ってきました。

模擬選挙や模擬裁判のように実際に体験しながら考える時間もあれば、答えが一つではない問いに向き合いながら、自分の言葉で考え、対話する時間もありました。

1回1回の授業は僕一人でつくったものではなく、その場で反応を返してくれる生徒の存在や、見守り支えてくださる先生方・外部の協力者の力があってこそ、はじめて“学びの場”として育っていったのだと思っています。 

改めて、「教育現場はチームワーク」ということを感じました。


僕が大切にしたかったのは、知識をただ覚えることではなく、「社会は自分に関係がある」と感じられること、そして「自分もこの社会の一員なんだ」と実感できることでした。

意識調査やアンケート・自由記述を読ませてもらう中で、その思いが少しずつでも届いていたことを感じられたのは、小さく、でも実現てきたこともあった、達成感のあるものでした。

「政治に興味を持つようになった」「ニュースを見るようになった」「選挙が自分に関係あることだと思えた」「自分も社会に関われると思った」。

そんな言葉の一つひとつを、とても嬉しく思います。


授業を通して、生徒自身が政治や社会を“遠いもの”ではなく“自分ごと”として受け止め始めていること、そして自分なりの問いや意見を持とうとしていることが伝わってきました。

特に印象的だったのは、模擬投票の授業が多くの生徒の記憶に残っていたことです。

本物の選挙に合わせて、本物の政党のマニフェストや選挙公報から情報を集め、投票箱や投票用紙を使いながら、自分で考えて一票を投じる。

その体験を通して、選挙や政治を身近に感じてもらえたことは、とても嬉しく思っています。

また、ホームレス問題や少年事件、安楽死や臓器移植のようなテーマについても、多くの生徒が深く考え、自分の中に問いを持ち帰ってくれたようでした。

そうした反応を見るたびに、主権者教育は制度を知るためだけのものではなく、人の生き方や社会のあり方を考える学びでもあるのだと、あらためて感じさせられました。


またアンケートでは、「こども・若者の声は大切にすべきだ」「年齢に関係なく意見を聞くべきだ」と考える生徒が非常に多くいました。

これはただ“優しい”ということではなく、社会を一緒につくっていく仲間としてお互いを見ようとする姿勢だと思います。


子どもや若者は、まだ社会の外にいる存在ではなく、すでに今を生きる市民です。

そのことを、授業の中で生徒自身が受け取り、自分の言葉で考えてくれたことに、大きな意味を感じています。 


僕自身、この1年間の授業を通して、教える側でありながら、たくさんのことを学ばせてもらいました。

生徒の率直な感想や問い、時には鋭い違和感やまっすぐな意見に、何度も考えさせられました。

社会を変えていく力は、特別な誰かだけが持っているものではなく、日々の中で「おかしい」と感じたり、「こうだったらいいのに」と言葉にしたりする、その小さな一歩の中にあるのだと、僕自身もあらためて教えてもらった気がします。

だからこそ、今回の実践は僕にとって、授業を“届けた”というより、一緒に“つくってもらった”1年でした。


この時間をともにしてくださったすべての皆さんに、心から感謝しています。

本当にありがとうございました。 


これからも僕は、シティズンシップ教育・主権者教育の実践を通して、子ども・若者が自分の声を持ち、社会とつながり、社会をつくっていける場を丁寧につくっていきたいと思います。

子どもたちのリアクションは「偏差値が高い」という一言では説明できないものがあると、手応えを感じています。

学校の中でも外でも、「学ぶことっておもしろい」「社会って自分たちで関わっていけるんだ」と感じられる機会を、これからも一つひとつ大切に届けていきます。 


#主権者教育 #シティズンシップ教育 #若者の政治参加 #対話型学習 #探究型学習 #模擬選挙 #子どもの権利 #社会参画 #教育の未来 #こどもまんなか



❶ 授業のテーマについて

01 ガイダンス - シティズンシップ教育とは?
社会で生きるための基本的な姿勢(シティズンシップ)と、18歳成人による「権利と義務」の拡大について学ぶ。

02 参議院の地位としくみを考える
日本の二院制の意義と、特に参議院の役割、地位、構成、女性議員比率やクォータ制の議論。

03 国会ではどんな仕事をしているの?
国会の主要な権限(立法・予算等)と、衆議院の優越が認められる理由を学ぶ。

04 総理大臣って、どんな仕事をしているの?(行政の役割)
内閣の組織構成、内閣総理大臣の権限、および議院内閣制の仕組みを理解する。

05 政治にはどのように関わるの?(政治参加と世論)
民主政治における多様な政治参加の方法と、メディアが世論に与える影響、メディア・リテラシーを学ぶ。

06 政治と行政の仕事 / 選挙の仕組み
中央省庁の役割と国家予算、および選挙の三原則と日本の選挙制度を学ぶ。

07 自分の人生と税や社会保障の関係 - ライフリテラシーゲームをしてみよう!
人生設計ゲームを通じ、社会保険や税金が自身の生活(収入・支出)にどう関わるか実感する。

08 あなたならどうする?わたしたちの選択(選挙体験)
模擬選挙を通じて、政党の公約比較、投票のルール(秘密投票等)、選択の責任を学ぶ。

09 少年法と子どもの権利① - 裁判を体験しよう
実際の殺害事件を題材に、模擬裁判(裁判員制度)を通じて司法のプロセスを学ぶ。

10 少年法と子どもの権利② - 少年法と少年事件
少年法の目的、少年事件の処理(家庭裁判所)、および司法権の独立について学ぶ。

11 インターネットと付き合う方法
SNS等のトラブル事例を通じ、基本的人権(表現の自由、プライバシー権)と公共の福祉の調整を学ぶ。

12 いのちと自由① - 臓器移植
臓器移植を題材に、「自己決定権」と「公共性」の対立について考える。

13 いのちと自由② - 安楽死・自死
自死や安楽死(嘱託殺人事件)の事例から、個人の尊厳と死の自己決定について議論する。

14 ホームレス問題を考える
ホームレス問題を通じ、生存権(健康で文化的な最低限度の生活)と、行政・市民の支援の在り方を学ぶ。

15 自分に向いている仕事のタイプは?
性格診断を通じて自己の適性を知り、働くことの意義や職業の多様性を理解する。

16 地方自治の役割と私たちの関わり
地方自治の仕組み、財政、住民参加を学び、自己の政治的価値観を分析する。

17 私たちの“政権選択”選挙に参加しよう!
衆議院選挙・国民審査を想定し、自分自身の「争点」に基づいた政策比較と投票判断のプロセスを体験する。

最終回:どうして勉強はしなければいけないの?」 - シティズンシップ教育で深めたい本当の問いとは?


❷ アンケート結果から見えてきた、主権者教育の成果とこれからの課題

1年間の授業を終え、50項目の意識調査をしてみると、生徒たちの中に確かな変化が生まれていたことが見えてきました。

① 自分と社会のつながり - 高い(3.1〜3.5)

  • 「政治は生活と関係がある」は特に高く、3.46 / 4
  • 社会への関心も全体的に高水準

→ 「社会=自分と関係ある」という認識が育っていることがうかがえる。


② 政治・社会への関心 - 高い(3.2〜3.5)

  • 「社会は自分に関係ある」 = 3.52 / 4
  • 「生活と社会はつながっている」 = 3.54 / 4 

→ 社会との“接続感”はかなり強い。ただし「自分の役割」認識はやや弱め(3.18 / 4)


③ 社会の一員としての責任感 - 高い(3.1〜3.7)

  • 「みんなのことを考える」 = 3.70 / 4
  • 「一人ひとりが考える必要」 = 3.73 / 4

→ 「責任」よりも「みんなで考える」という価値観が強く、個人責任だけでなく“協働的市民観”が育まれている。


④ 社会について考える力 - 高い(3.1〜3.8)

  • 「多様な見方がある」 = 3.82 /4
  • 「情報を得てから考える」 = 3.49 / 4

→ 多角的思考はかなり育っており、“正解1つではない”理解が定着している。


⑤ 対話・話し合いへの態度  - 高いがばらつきあり

  • 「違う意見を聞く」 = 3.62 / 4
  • 「対話は大切」 = 3.78 / 4
  • 「日常で話す」 = 2.87 / 4

→ 対話の価値は理解しているが、日常実践にはまだハードルある。


⑥ 意見表明の意欲 - 高い(3.2〜3.8)

  • 「考えを持つことは大切」 = 3.82 / 4
  • 「意見を言ってよい」 = 3.59 / 4
  • 「前向きになった」 = 3.24 / 4

→ 意見を持つ意識は強いが、“実際に言う”には少し壁がある。


⑦ 子ども・若者の声への意識 - 非常に高い(3.7〜3.8台)

  • ほぼ全項目で最高レベル

→ 「子どもも市民」という価値観は完全に浸透している。


⑧ 社会参加・政治参加の意欲 - 中〜やや高(2.9〜3.3)

  • 「投票は大切」 = 3.77 / 4
  • 「ボランティア参加」 = 2.91 / 4

→ 意識は高いが、行動意欲はやや弱く、 理解から行動へのギャップがある。


⑨ 自己効力感・挑戦意欲 - やや低め(2.8〜3.4)

  • 「自分の影響力」 = 2.87 / 4
  • 「社会を変えられる」 = 2.86 / 4 

→ 「分かったけど、自分にできるかは別」と言う認識で、こちらの調査からも理解から行動へのギャップがうかがえる。


⑩ 社会課題・未来へのまなざし - 中〜やや高(3.0〜3.6)

  • 「社会をつくるのは大人だけではない」 = 3.65 / 4
  • 課題への関心も比較的高い

→ 未来志向は育っている一方で、主体的アクションまでは未到達。


❸ 授業の評価・印象に残った学びについて

  • もっとも多く印象に残っていたのは、模擬選挙・模擬投票でした。
  • 本物の投票箱や投票用紙を使った体験が、政治や選挙を「遠いもの」ではなく「自分に関わるもの」と感じるきっかけになっていたことが読み取れます。
  • また、安楽死・臓器移植・ホームレス問題・少年法など、正解が一つではないテーマも強く印象に残っており、多面的に考える授業として受け止められていました。
  • さらに、越智さんの人生や最終回の話を印象深く挙げる声も多く、制度理解だけでなく、生き方や学ぶ意味に触れる授業として残っていたことがうかがえます。 


❹ 意識の変化・内面の変容

  • 自由記述では、「政治に興味を持つようになった」「ニュースを見るようになった」「選挙は自分に関係あると感じた」といった変化が非常に多く見られます。
  • 特に、「自分はまだ子どもだから関係ない」から「自分も社会に関われる」への変化が大きく、主権者意識や当事者意識の高まりが見えます。
  • 加えて、他者の意見を聞くことの大切さ、多角的に考えることの必要性、社会課題を“自分ごと”として捉える視点も広がっていました。 


❺ 今、関心の高い社会課題

  • 最も目立っていたのは、トランプ政権やアメリカの軍事行動、イラン・イスラエルを含む中東情勢、そしてそれに伴う石油価格・ガソリン代・物価高騰への関心です。
  • ほかにも、少子高齢化、地方の過疎化、AI、環境問題、ジェンダー、若者の政治参加、外交、安全保障など、国内外をまたぐ幅広いテーマに関心が向けられていました。
  • 身近な生活課題と国際情勢がつながって理解され始めているのが特徴的です。


❻ これからやってみたい行動

  • 「ボランティアをしたい」「実際に投票したい」「模擬選挙や模擬裁判をまたやってみたい」といった声が多く、学びが行動意欲に結びついています。
  • また、校則づくりや学校改善、生徒会選挙、地域イベント参加、地域課題を大人に聞くこと、自治的な運営への関心など、学校や地域の中で具体的に関わりたいという志向も見られました。
  • 社会を“見る”だけでなく、“関わる”方向に意識が動いていることがわかります。 
  •  こども・若者の声を大切にするための提案 提案として多かったのは、「若者が意見を言える機会を増やすこと」「大人が若者を一人の意見として尊重して聞くこと」「オンライン目安箱や専用の意見箱の設置」「投票率を上げて無視できない存在になること」などです。
  • 単なる“聞いてほしい”ではなく、制度や仕組みとしてどう反映させるかまで考えている回答が多く、若者自身が参加の条件づくりを考えている点が印象的です。